遺贈登記の手間を大きく左右する? 『遺言執行者』の役割とは
配偶者に先立たれ、広い自宅で一人暮らしをしている人の場合、自分の死後に自宅をどうするかは一つの悩みどころです。
子どもや孫たちが遠方にいる場合、相続しても自宅に住んでくれる可能性は低いでしょう。
さらに自宅の評価額がそこまで高くないといったケースでは、自宅を相続人に相続させるのではなく、お世話になった人や友人などの第三者に遺贈するという選択肢もあります。
遺贈するときには、遺言執行者を立てておくとその後の登記手続きの手間が軽くなります。
今回は、遺贈と遺言執行者について解説します。
遺言執行者は何をする?
『遺言執行者』とは、その名のとおり遺言の内容を執行する人のことで、『遺言執行人』と呼ばれることもあります。
たとえば、『Aを遺言執行者に指定する』と遺言に書かれていた場合などは、指定されたAさんが、遺言に書かれた内容を実現させるために手続きを行っていきます。
具体的には、財産目録の作成や、相続財産となっている預貯金の請求や解約手続き、不動産の登記手続きなどを行います。
遺言執行者がいることで、相続手続がスムーズに進む場合は多くあります。
たとえば、遺言の内容が気に入らない相続人がいた場合、その人が勝手に財産を処分してしまう事態が起きるかもしれません。
しかし、遺言執行者がいればその行為を無効にすることができ、遺言どおりの相続を推し進めることができるのです。
遺言執行者について、民法では『遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する』と定められており、その権限は非常に大きいものとなっています。
特に、不動産が第三者に遺贈されているときは、遺言執行者の有無が相続手続を難航させなたいために重要な役割を果たすことが多く、登記手続きの手間も大きく変わります。
民法では『遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる』と定められており、遺贈に関しても遺言執行者は大きな権限を持ちます。
通常、贈与に基づく所有権移転登記は、原則として『登記権利者』(贈与を受けた人)と『登記義務者』(贈与をした人)による共同申請で行います。
しかし、遺贈の場合は、登記義務者(贈与をした人)はすでに亡くなっているため、代わりに遺言執行者が登記義務者となります。
遺言執行者がいない場合は、相続人全員が登記義務者となります。
遺言執行者がいる場合、登記手続きに必要な書類は以下のとおりです。
●遺言書(自筆証書遺言は家庭裁判所で検認済のもの)
●登記済権利証または登記識別情報通知書
●遺言執行者選任の審判書(家庭裁判所が遺言執行者を選任した場合)
●遺言執行者の印鑑証明書
●受遺者の住民票または戸籍の附票
●固定資産評価証明書または納税通知書
●遺言者の戸籍謄本または除籍謄本
●遺言者の住民票除票または戸籍の附票
遺言執行者がいないと、登記手続きは煩雑に
同様のケースで遺言執行者が定められていない場合、相続人全員が登記義務者となり、登記権利者と共同申請をすることになります。
このケースでの登記手続きでは、先ほどあげた書類に加えて、以下の書類が必要となります。
●相続人全員の戸籍謄本
●相続人全員の印鑑証明書
このように、遺言執行者がいない場合は、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書を揃えなければならず、相続人の数によっては、手続きは非常に煩雑になります。
また、すべての相続人が遺贈について肯定的であればよいのですが、遺贈に難色を示す相続人がいる場合、印鑑証明書を出してくれないなどの妨害に遭うおそれもあります。
一方、遺言執行者がいれば、遺贈に難色を示す相続人がいたとしても、遺言書のとおりに登記手続きを進めることができます。
また、相続人全員の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書も必要ありません。
遺言執行者の有無は、このように登記手続きの手間を大きく左右するわけです。
遺言執行者はどのように選任する?
遺言執行者は、遺言書に「この人を遺言執行者として指名します」と書くことによって指定することができます。
このほか、遺言書では『遺言執行者を選任する人』だけを決めておき、遺言者が亡くなった後に指定された人が遺言執行者を選任するという方法がとられることもあります。
遺言書を早くに作っておきたいときなどには、この方法がよいでしょう。
さらに、家庭裁判所が選任するという方法もあります。
遺言執行者を指定せずに遺言者が亡くなったときや、遺言執行者として指定されている人が先に亡くなってしまっているときは、申し立てにより、家庭裁判所は遺言執行者を選任することができます。
申し立てができるのは、相続人、受贈者などの利害関係人です。
遺言執行者をあらかじめ選任しておけば、自分に何かあってもスムーズに相続手続きや遺贈手続きをしてくれるため、安心です。
ただし、遺言執行者として指定された人は、これを拒否することもできますので、遺言執行者を選任するときは、あらかじめ承諾を得ておくようにしましょう。
遺言執行者が遺贈の履行ができるといっても、円満に相続や遺贈の手続きを進められないと、相続人や受遺者の負担は大きくなってしまいます。
禍根が残らないよう、遺贈の意思を相続人に伝え、できる限り事前の承諾を得ておけるとベストです。
遺贈を検討する際は、遺言執行者を立てるとともに、相続人への配慮も忘れないようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
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