特定の相続人には遺産を渡したくない! 対策について税理士が解説!
自分の死後、折り合いの悪い親族に遺産が渡るのを避けたいと思うのは、自然なことだといえるでしょう。
その人が法定相続人でなければ何の問題もありませんが、配偶者などの法定相続人だった場合、何もしないでおくと財産が渡ってしまうことになります。
自分の思いを叶えるためには、何らかの対策をとっておかなくてはなりません。
今回は、その対策の一つとして簡単な方法を紹介します。
民法上、決められた法定相続人とは
民法上、相続人になれる人を法定相続人といいます。
法定相続人になりえるのは、以下のAおよびBに該当する人です。
A. 被相続人の配偶者
B. 被相続人と法律上、血のつながりがある者(血族)
Bのグループのなかには優先順位があり、(1)子、(2)直系尊属、(3)兄弟姉妹という順序が決まっています。
これらが同時に存在する場合、(1)(2)(3)のうち最も順位の早いグループの人だけが法定相続人となります。
つまり、被相続人に、配偶者と子がおり、被相続人の両親も存命中という場合は、法定相続人は配偶者と子のみとなるということです。
この法定相続人に関してよくある悩みに、『離婚協議中、離婚が成立する前に自分が死んでしまい、配偶者に財産が流れてしまうことに拒絶感がある』というものがあります。
上記のとおり、配偶者がいる場合、配偶者は必ず法定相続人になりますので、遺産を渡したくないのであれば、自分が生きているうちに離婚を成立させなければなりません。
しかし離婚は、離婚訴訟で判決をもらう以外には、夫婦双方の合意がなければ成立しないため、配偶者に「離婚したくない」といわれてしまえば離婚はできません。
そのため、高齢だったり、突然死の可能性もある持病をもっていたりする人は、相続を意識するようになると、焦る気持ちをもつこともあるようです。
遺言書を作成しておくことで財産を守れる
では、急いで離婚を成立させるという方法以外で、何か対策はとれないのでしょうか。
もっとも簡単なのは、『遺言書を作っておくこと』です。
遺言書を作るというと、少し身構えてしまうかもしれませんが、思っているよりも簡単に作成することができます。
遺言にはいろいろな種類がありますが、主なものとしては『自筆証書遺言』と『公正証書遺言』があります。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文・日付・氏名を自書し、これに押印すれば、成立します。
一方で、公正証書遺言は、公証人が関与して作成するものになります。
公正証書遺言の要件は、法律でやや細かく規定されているので、実際に作成する際は公証役場に相談すると、公証人が作成のサポートをしてくれるはずです。
どちらの遺言にしたとしても、重要なのは、配偶者に財産が渡らないような内容で作成することです。
たとえば、もし子どもがいて離婚協議中の人であれば、『遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、子○○(和暦○○年○○月○○日生)に相続させる。』と記載すれば、子に全財産が渡ることになり、配偶者に財産を渡さずに済みます。
遺言書だけでは思いどおりにならないことも
遺言書を作成して、遺産を特定の人に渡さないようにすれば、100%財産の流出を防げるのかというと、残念ながらそうではありません。
というのも、遺産を渡したくない人が、配偶者・子・直系尊属であった場合、これらの人は、『遺留分侵害額請求』をすることで、一定程度の財産を得ることができるからです。
もっとも、この遺留分侵害額請求をするかどうかは、遺産を渡してもらえなかった人自身が判断することなので、さまざまな考慮の結果、請求しないという判断をしてくれる可能性もあります。
遺留分侵害額請求をしてもらいたくないと思うならば、相手に対して『なぜ遺産を渡さないのか』という部分を生前に説明しておくなど、遺留分侵害額請求権者の気持ちに配慮し、協力をあおぐ必要があります。
相続権を奪うということは、本人と特定の相続人だけの話ではなく、その相続人と、ほかの相続人の人間関係も悪化させてしまう可能性があります。
本当にそれが全員のためになるのか、相続開始後の人間関係についても配慮しながら、準備を進めていく必要があるでしょう。
※本記事の記載内容は、2021年8月現在の法令・情報等に基づいています。
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